成長期にしかできない土台からの矯正~「骨」と「歯」の2段階に分けた治療
小児矯正は、成長期に顎の骨の形を整える「1期治療」と、永久歯が生え揃ってから歯を移動させて歯並びを整える「2期治療」に大別されます。
1期治療
骨の成長を利用して、上下の顎骨の形やバランスを整え、歯がきれいに生えてくるようにスペースを確保します。
2期治療
生え揃った永久歯をそれぞれ移動させて、歯列をきれいに整え、正しく美しい歯並びを完成させます。
1期治療とは
【顎の骨格を中心とした治療でしっかりとした土台作りを】
子供の顎骨が狭かったり、上下の顎骨のバランスが悪かったりすると、本来生えてくる位置から永久歯が生えず、歯並びが悪くなる原因となります。そこで1期治療では、専用の装置を使い顎骨を広げるなどしてバランスを整え、歯が正常な位置から生えて正しい噛み合わせとなるための土台作りをします。これにより、将来、歯並びや噛み合わせが悪化するのを予防できます。
【1期治療の開始時期】
1期治療は一般的に3歳から始めることができるとされていますが、どのようなケースでも早くから始めればよいというものではありません。
1期治療を必要とせず、第2期治療からの矯正で十分なお子様も少なくありません。
しかし1期治療が必要かどうかは自己判断できませんので、どのような治療を受けさせて、どうなってほしいかという保護者の方の希望や、お子様本人の症例をふまえて精密検査をしたうえで、矯正歯科医師としっかりカウンセリング・診断し、治療方法を見極めていく必要があります。
ただし、早く治療を開始した方がよい症例もあるので、現在は気になっていなくても、まずは一度専門医に相談してみることをおすすめします。先天的な欠損歯や埋伏歯など検査してみないとわからない症例もあるからです。
【1期治療の治療期間】
1期治療の治療期間は症状により異なりますが、おおむね2~4年程度を見込んでいます。
2期治療とは
永久歯が生え揃ってから行う矯正で、いわゆる成人矯正と同じです。永久歯列に改善点がある場合、固定式または取り外し式の矯正装置を使って矯正します。
先に1期治療をしておくことで、永久歯が不正な位置から生えることなく、おおよそ正しく並ぶようになります。これによって、2期治療では永久歯の抜歯をせずに歯並びを整えられる可能性が高くなります。
【2期治療の開始時期】
永久歯が生え揃うのは、第2大臼歯(いわゆる12歳臼歯)が萌出するころ、つまり小学校高学年から中学生(12~14歳)で、2期治療はそれ以降に開始します。
前述の通り、経過観察により顎骨の成長が順調である場合や、小学校高学年から中学生(12~14歳)で矯正を始める場合は、1期治療なしで2期治療(いわゆる成人矯正)から矯正治療を始めることもあります。
【2期治療の治療期間】
2期治療の治療期間は症状により異なりますが、おおむね1~3年程度を見込んでいます。
1期治療と2期治療の関係
上述しましたように、「1期治療でしっかりと顎の骨格の土台作りをし、2期治療で歯並びをきれいに整える」という流れで矯正治療を行うことで、将来、よりきれいな歯並びになる可能性が高くなります。基本的には1期治療と2期治療はセットとして考えていただくとよいでしょう。
また、1期治療を受けておくことで、そうでない場合に比べ手間をかけずに永久歯を矯正できるため、時間や費用などを抑えることができます。
1期治療が終わった後、永久歯が生え揃って2期治療を始めるまで、数年待つ場合もあります。
当院では成人矯正の基本料金から、小児矯正の基本料金分の金額を値引きいたします。
さまざまな症例と1期治療の進め方
それぞれの症例に応じて、1つから複数の装置を段階的に使い分け、顎骨の形を整えていきます。
出っ歯(上顎前突)
ヘッドギアなどで上顎歯列を押さえて、上下の顎骨のバランスを整えます。
乱食い・デコボコ(叢生)
歯の大きさ・数に対して、顎骨のスペースが足りず、歯が1列に並べない状態です。
拡大装置などで顎のアーチを広げることで、歯が並ぶスペースを作り、デコボコになるのを防ぎます。
2期治療(成人矯正)では、抜歯やディスキングによってスペースを確保することもあります。
受け口・しゃくれ(下顎前突・反対咬合)
正しい噛み合わせは上顎が少し大きい状態ですが、いわゆる受け口は反対に下顎が大きく外側に噛み合わせている状態となっています。受け口は早めの治療が必要です。また改善にはある程度の治療期間を要します。
顎骨の成長が終わってからでは、外科手術を併用しないと治療が困難ですが、成長期の早いうちから治療をすれば骨の成長をコントロールして改善させることが可能です。
フェイスマスク・拡大装置で、上顎の成長を誘導・下顎の成長を抑制するように促します。
1期治療前であれば、低年齢児向けのマウスピース型矯正装置を着用することで改善を促します。
1期矯正・2期矯正の矯正装置
1期治療と2期治療では、治療方法や装置が異なります。お子様のお口の状態を検査し、適切な装置を選択して治療を進めていきます。
当院の小児矯正では、以下のような装置を使って治療をしています。
1期治療
顎の骨格の矯正がメインとなるので、骨格を矯正する床矯正装置やマウスピースの使用が中心となります。
2期治療
成人矯正治療と同じくブラケットの使用が中心となります。
拡大床
顎の骨に対して歯が大きいと、歯列が崩れて叢生(でこぼこ・八重歯)の状態になり、噛み合わせが悪くなります。このような症状を改善するため、歯の内側にプレート状の装置をつけて顎を広げる装置です。顎を広げることで歯を移動させるためのスペースを確保でき、抜歯をせずに歯並びを改善できる可能性が高くなります。1期治療で主体となる治療方法です。
バイオネーター
上顎前突(出っ歯)や過蓋咬合(噛み合わせが深い)などを改善するための装置です。出っ歯の場合、上顎が前に出ている状態なので、上下のバランスが良くなるよう下顎の成長を誘導します。この装置を使用することで、歯並びや顔貌の調和が期待できます。
ムーシールド
反対咬合(受け口)を早期に治療する装置です。顎の骨格が成長し終わる前、つまり子供のころの方が骨の動きをコントロールしやすく、目的とするきれいな歯並びへと改善しやすくなります。就寝中に装着するので、負担が少なくすみます。
マウスピース型装置
顎の骨の柔らかい1期治療で使用すると効果的な装置です。ブラケット矯正に比べて低価格であり、在宅時の1時間と、就寝時のみの装着なので、子供への負担が少ない装置です。上顎前突(出っ歯)、反対咬合(受け口)、開咬症(前歯が噛み合わない)など、それぞれの症状に適したマウスピース型装置があります。
フェイスマスク
フェイスマスクは、上顎がうまく成長しておらず受け口になっている症例で使う装置です。装置は額と顎をワイヤーでつなぐような構造になっています。装置をつけて下顎を動かすと、ワイヤーにつないでいるゴムが口の中の装置を引っ張って、上顎を前に押し出す仕組みになっています。下顎の動きが上顎の成長を促すことで、上下の顎のバランスが整います。
マルチブラケット矯正
歯1本ずつにブラケットという留め具をつけ、そこにワイヤーを通して歯を動かします。大人が使用する一般的な装置でもあります。子供の場合、永久歯が生え揃い、顎の成長が完了した2期治療で使用します。
その他の装置
この他、金具を口内に固定することで指の侵入を防ぐ「指しゃぶり防止装置」など、各種装置をご用意しています。
歯の状態によって適切な矯正装置をご提案していますが、場合によっては使う装置が複数にわたることがあります。破損や紛失を除き、使う装置が増えても追加料金を頂いておりませんので、ご安心ください。
1期治療・2期治療のメリット・注意点
1期治療から2期治療までセットで矯正治療を行うことで、成人矯正にはないメリットが多く得られます。
1期治療と2期治療のメリット
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- 顎の成長を整えられる
- 永久歯の生え揃っていない1期治療では、顎の骨格を整える治療が主体になります。この時期に治療することで、上下の顎のバランスや大きさを整えやすくなります。
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- 抜歯の可能性が低くなる
- 成人矯正の場合には、歯列を整えるために抜歯することがあります。これは、顎が小さく歯がきちんと並ぶスペースが少ないからです。一方、小児矯正の場合は1期治療で骨格を整えるので、将来抜歯する可能性が低くなります。
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- 成人矯正の必要性が減る
- 小児矯正によって顎が適切に成長したり、歯列が整うことで、大人になってからの矯正治療の必要性が減少します。成人矯正の必要が生じたとしても、短期の治療で、より良い治療効果が得られるといわれています。
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- 定期的な虫歯のチェックも可能
- 矯正している間は、1、2か月に一度、定期的なチェックを受けることとなります。その際、虫歯のチェックや予防などをしてもらえば、効果的な虫歯予防も可能となります。
1期治療と2期治療の注意点
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- 矯正期間が長くなる場合がある
- 顎の成長が終わるのは、男児で18歳前後、女児で15歳前後とされています。顎が適切に成長するまで継続的に矯正治療を行う場合は、治療期間が長くなる場合があります。
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- 治療方法によっては虫歯になる可能性がある
- 歯に装置を固定するマルチブラケット矯正の場合は、食べかすが挟まりやすく、歯磨きもしにくいので、虫歯になる可能性が高くなります。お子様自身の歯磨きだけではプラークコントロールを徹底できないので、保護者の方が仕上げ磨きをしたり、おやつなどの管理や、定期検診で虫歯のチェックや予防をすることが大切です。
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- 子供のストレスになる場合がある
- 表側から装置が見えるマルチブラケット矯正の場合、見た目や口の中の異物感は、子供にとって大きなストレスになります。また、就寝時や一定時間だけ装着するマウスピース型矯正装置でも、ストレスを感じることがあるようです。
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- 治療方法によっては本人の努力が必要
- マウスピース型矯正装置の場合、自分で取り外せるため、一定の装着時間を守れないことがあります。矯正治療の必要性を理解し、装着時間を守って治療を続けていくという意思が大切です。装置を頻繁に外していると、治療が長引き、予定どおりに歯が動かなくなってしまいます。
保護者の方は、「子供の歯並びをなるべく早い時期にきれいにしたい」と思われる一方で、「子供がストレスを感じながら生活することになるのではないか」という心配もあるのではないでしょうか。一概にはいえませんが、矯正治療は、顎の成長が終わった大人になってから始めるよりも、子供のうちに始めた方がよい場合が多いです。
迷われている方は、お子様と一緒にご来院ください。実際にお子さまの歯並びを拝見し、治療の必要性や開始時期を診断いたしますので、どうぞお気軽にご相談ください。
小児予防矯正~2歳からのトレーニング
1期治療より前の幼児期にも、症例によっては予防的な処置が可能です。まずは一度ご相談ください。
2~3歳の検診で歯並びについて指摘されたけど、本格的に治療するには早い場合
検査・診断して、癖などを改善しながら経過観察をします。
指しゃぶり、口呼吸、舌足らず、口を開けっ放しなど、歯並びに悪影響のある癖がある場合
舌癖などの改善トレーニングにより歯並びの悪化を防ぎます。
重度の場合は、低年齢児向けのマウスピース型矯正装置を使って、正しい筋機能を身につけるためのトレーニングをして改善させることもできます。
受け口(反対咬合)の場合
受け口は早めの治療で大きく改善が見込めます。
症例によっては、2歳くらいから始められる、低年齢児向けのマウスピース型矯正装置を就寝中に着用することで、本格矯正治療前に予防します。
低年齢児向けのマウスピース型矯正装置(ムーシールド)
本格的な小児矯正の前に使います。就寝時に口にくわえるだけのマウスピース型装置です。
矯正治療を始めるには、じっとして歯型をとったり、検査をしたりしなくてはならないので、6歳ぐらいにならないと始められないことがほとんどです。
しかし、この低年齢児向けのマウスピース型矯正装置は、歯型を取る必要がないので、2~3歳の小さなお子様でも始められます。
3歳前後の検診で受け口を指摘されたり、5歳前後で乳歯の間に隙間がなかったりする場合など、将来、矯正治療が必要な場合の早期治療として、口腔周囲筋(噛み合わせる筋肉や唇、舌の筋肉)の正しい動きのトレーニングを行いたい方にもおすすめです。
保険の適用について
基本的には矯正治療は保険適用外の自費治療となります。
しかし、顎変形症や唇顎口蓋裂(上顎が中央で断裂する疾患)などと認定された場合は、外科手術をともなった所定の治療工程が必要となり、保険の適用が可能となります。その場合は、指定自立支援医療機関(育成医療・更生医療)で治療を受けることが条件となります。
また、子供の矯正の目的は噛み合わせの改善が主な目的となりますので、多くの場合は医療費控除を受ける対象となります。実際に適用可能かどうかはカウンセリングの際にご相談ください。